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大阪高等裁判所 昭和56年(ツ)26号 判決

上告人

和泉智弘

被上告人

山下高司

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は別紙上告理由書写のとおりである。

一上告理由第一点(1)(一)(イ)、(ロ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(二)(ロ)、(ニ)、(ホ)、(三)(ホ)(六)一、二第二点について

判旨袋地に電気、電話を導入するためには、本線から袋地周辺の土地の上空を経由して袋地まで至る引込線の架設をしなければならないところ、右架設について下水道法におけるような明文の規定は見当らない。しかしながら、今日の都市生活において電気の導入は必要不可欠であり、電話もこれに準ずるものであるから、かかる場合には隣接土地相互間の利用の調整を目的とする民法の相隣関係の規定や公衆電気通信法の規定を類推適用し、周囲の土地のうち引込線を架設するうえでもつとも合理的合目的的でかつ損害の少い土地の上空を利用させるのが相当であり、右土地の所有者は右利用を受忍し、承諾すべきである。そうして右土地は、電柱等の位置によつて、場所や方法が不適当であるなどの特段の事情のある場合を除き通常は囲繞地通行権を有する部分がこれに当るものと認めるのが相当である。そうして右受忍は土地所有権の制限にあたるものではあるが、所有権も絶対不可侵なものでなく、前判示の趣旨からこれを肯定しても憲法二九条に違反しないというべきである。

原審は、同旨の見解のもとに、本件一の土地は袋地であり、本件二の土地は本件一の土地のため囲繞地通行権の対象になつていること、従前の右土地附近での被上告人方への電線、電話線の引込状況は原判示(第一審判決添付別紙図面)のとおりになつていること、本件一の土地上の建物に電気、電話の導入のためには本件二の土地の上空上に引込線を架設することが必要であり、かつ右架設が二の土地の所有者たる上告人に特段の損害を与えないこと、およびこれまでの本件二土地の使用状況等諸般の事情を総合し、上告人は本件二土地の上空に右各線を架設することを受忍し、これを承諾する義務があるものと判断したものである。もつとも、原審は、右承諾を求め得る根拠として結論的に囲繞地通行権が囲繞地の上空に及ぶからという字句を用いているけれども、右結論に至る理由説示に対比すると、原審は囲繞地通行権などの相隣関係の規定等原判示の規定を類推適用し、上告人に右各線架設について承諾義務を認めた趣旨であることが看取できる。そうして右原審の認定は原判決挙示の証拠に照らし、正当であり、右判断も右認定の事実関係に照らし正当としてこれを肯認することができ、その過程に所論の違法は認められない。なお、被上告人が上告人に対し本件二の土地について民法二一三条に基づく囲繞地通行権を有することは右当事者間の神戸地方裁判所昭和五〇年(レ)第一二八号事件の確定判決によつて明らかであり、これを争うことはできない。論旨は採用できない。

二上告理由第一点(1)(一)(ト)、(二)(イ)、(ハ)、(三)(ハ)、(六)の三、四について

所論の点について原審は理由五において判示しており、右判断は正当であり、右判断の過程に所論の違法は認められない。

三上告理由第一点(三)(ヘ)、五(ロ)、(六)について

原審は、所論の信義則違反、権利濫用の点について原判決理由六の項において説示している。そうして右判断は、原判決認定の事実関係のもとにおいては正当として肯認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用できない。

四上告理由第一点(1)(一)(ハ)について

上告人指摘の答弁は、第一審判決事実欄に摘示され、原審第一回口頭弁論期日において、被上告人が第一審判決事実摘示のとおり原審口頭弁論の結果を陳述したことにより、右答弁をしたものというべきである。したがつて、原審の右扱いに所論の違法はなく、論旨は採用できない。

五上告理由第一点(1)(二)(ホ)について

輔佐人を用うることを許可するか否かは当該事件を審理する裁判所の専権に属する事項であり、右許可をしなかつたとしてもそれが違法になることはない。そうして、輔佐人は心神障害のため、あるいは特に専門的知識を要する事案であるため訴訟をするうえに権利の擁護ができないなど特段の事情がある場合に、裁量により許可さるべきものであつて、本件のように、上告人が紛争発生当時未成年で事情にうといからということは右許可さるべき事情に当らない。原審が右許可をしなかつたことに所論の違法はなく、論旨は採用できない。

六上告理由第一点のその余の点について

これらは、原審の認定事実と異なる事実を主張して原審の事実認定を非難し、或いは証人申請を採用しなかつたことを非難しているに過ぎず、いずれも適法な上告理由に当らない。論旨は採用できない。

七上告理由第三点について

上告人、被上告人間の神戸簡易裁判所昭和五二年(ハ)第八八六号事件において、同裁判所は被上告人の囲繞地通行権に基づいて上告人に対し本件二土地上の風呂場部分、板塀部分の撤去および右土地の明渡を命じ、右判決は確定したこと、および同事件において、囲繞地通行権は建物の玄関ないし出入口の高さ以上に及ばないとする上告人の主張に対し、通行に必要な範囲で及ぶと判示したことは上告人指摘のとおりである。しかし、右判断は当該訴訟の解決に必要な限度で判断をしたにとどまり、該確定判決は囲繞地通行権等の類推により、囲繞地の上空に電線等の架設をすることについて上告人に受忍すべきことを認めた原判決と矛盾するものではない。原審の判断に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

八上告理由第四点について

裁判所は当事者の提出にかかる証拠の採用、排斥につき理由を逐一説明する義務はない。原審は、上告人提出の乙第一〇、一一号証を含む原判決挙示の証拠によつて判示の事実を認定し、右認定を覆するに足りる証拠はない旨判示して証拠判断をしており、原審の右判示に所論の違法はない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(谷野英俊 丹宗朝子 蒲原範明)

上告理由書〈省略〉

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